・日本だけの現象か?
 日本人では有名な「運資源ビリーフ」ですが、では他の国ではどうなのでしょうか?現在、実地調査の最中ですが、まず欧米社会にはよく見られ、luck run out(運が尽きる)という表現があることが分かっています。ユダヤ人社会(イスラエル)にも「宝くじで運を使ってしまった」みたいな話はあるようです。

 アジアの調査結果で特に頻繁に見られるのは中国とタイです。この二つの国では日本と同じぐらい、この話が普及していると言ってよいでしょう。ここで気になるのは地域性と宗教の影響です。まず仏教国ですが、同じ東南アジアでもカンボジアにも若干いるようですが、ビルマにはほとんどおらず、ビルマでこのような考え方を持つ者はキリスト教徒の影響である可能性があります。

 ビルマとインドの境を越えると、この影響はかなり低下します。同じ仏教色の強いスリランカではほとんど見られず、またヒンドゥー圏のインドやネパールでも同じような傾向があります。特に中国下にあるチベットから入ってくると、チベットには見られるのに、峠を越えると断絶している感さえあります。ヒンドゥー圏にはほとんどないと言えそうです。

 ではイスラム圏ではどうでしょうか。そもそもイスラム圏で運の話をすると、Inshallahの思想(神の思うまま)というのがあり、人が運をコントロールするという話が出てこない場合もあるのですが、実際のところインドのお隣であるパキスタンでは少ないながらあるようです。ただしメジャーな信念とは言えなさそうですが、中国下にあるウイグルと類似した状況であり、こちらにはつながりがないとはいえません。少し飛んでシリア・イエメンなども同じ状況です。これがキリスト色の少しあるレバノンに行くと、否定的な意見が増えるのが面白いところです。

 これまでの結果からは、宗教よりもむしろ地域性が大きく関わってくるのではないかと考えています。それは社会の中での階層移動性、つまり後天的な出世可能性がこのような話を広める要因になっているという仮説です。